化学物質を取り扱っている企業が先ず取り組むべきこと
1. はじめに:自律的な化学物質管理への転換とは?(法令改正の背景)
化学物質に起因した労働災害の発生件数は近年高止まりしています。その原因の一つとして、従来の「個別具体的な規制(特化則や有機則など)」の対象外となっている物質による災害が多くを占めていることや、中小企業での対策の遅れが指摘されていました。
このため国は、国が細かく指示を出すこれまでの手法から、海外でスタンダードとなっている「企業自らが危険性・有害性を把握し、自律的に管理を行う方式」へと大きく舵を切りました。これにより、業種や規模を問わず、対象となる化学物質を取り扱うすべての事業場に積極的な取り組みが求められています。
2. ステップ1:取り扱い化学物質の総点検
・洗い出し・リスト化
これまでリストを作成していない場合は、自社が取り扱っているすべての化学物質を洗い出し、その名称やCAS番号などをリスト化します。すでに作成している場合でも、購入品や現場の使用実態と照らし合わせ、リストに漏れがないかをあらためて確認します。
・SDSの取り寄せと確認
原料として取り扱っている製品・化合物について、購入先から最新のSDS(安全データシート)を取り寄せ、記載情報に漏れや更新がないかを確認します。
・自社製品のSDSの見直し・作成
原料から製剤(混合物)を製造・配合して出荷・譲渡する場合は、法規制情報や有害性を把握し(GHS混合物計算や実測など)、その情報をもとに最新法令に適合したSDSを作成・見直しを行い、顧客へ提供します。化学反応を伴う製品の場合も、生成した化合物について下記のデータベース等を活用して情報を収集し、SDSを作成します。
・情報の自社調査(データベースの活用)
購入先から十分な情報が得られない場合や、自社で詳細を調べる際は、公的データベースを活用して情報収集を行います。
- NITE-CHRIP:CAS番号等から国内法規区分や有害性情報を横断検索可能。
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/systemTop - BigDR(日化協):物質名やCAS番号から関連法規を検索可能。
https://www.jcia-bigdr.jp/jcia-bigdr/material/law_search - chemi COCO(環境省):化学物質の法規制や環境リスク情報を検索可能。
https://www.chemicoco.env.go.jp - 職場の安全サイト(厚生労働省):モデルSDSやGHS分類結果の閲覧が可能。
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/ghs_msd_fnd.html
3. ステップ2:管理体制の構築
・化学物質管理者の選任
リスクアセスメント対象物を製造し、取り扱い、譲渡し、又は提供する事業場は、事業場ごとに「化学物質管理者」を選任する必要があります(労働安全衛生規則第12条の5)。選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任しなければなりません。
製造事業場においては厚生労働大臣が定める講習(専門的講習・12時間)の修了者から選任することが義務付けられています。取扱いのみを行う事業場では資格要件こそ義務化されていませんが、実務対応の観点から取扱事業場向け講習(6時間)等の受講者から選任することが推奨されています。
・保護具着用管理責任者の選任
リスクアセスメントの結果に基づき保護具を使用させる事業場や、皮膚等障害化学物質等を取り扱う事業場ごとに選任します。原則として所定の保護具着用管理責任者教育(6時間)を修了した者等から選任する必要があります。単なる在庫管理にとどまらず、適切な保護具の選定、保守管理、作業者の正しい着用の徹底などを管理・指導します。
4. ステップ3:リスクアセスメントの実施とばく露低減措置
作業場に潜む危険性や有害性を特定し、リスクの大きさを見積もったうえで優先度を決め、必要な低減措置を講じる手順です。SDS交付義務の対象物質を取り扱う場合、以下のタイミングで実施することが義務付けられています。
① 対象物を原材料等として新規に採用・変更するとき
② 作業の方法や手順を新規に採用・変更するとき
③ 危険性・有害性情報が新たに提供・改訂されたとき(SDS改訂時など)
④ 対象物による労働災害が発生したとき
リスクアセスメントを初めて行う場合、厚生労働省が提供している無料支援ツール「CREATE-SIMPLE」を活用するのがおすすめです。作業条件や取扱量を入力することで、簡易的にリスクレベルを見積もることができます。
- CREATE-SIMPLE(職場の安全サイト)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_3.htm
5. ステップ4:日常管理・周知・記録
・労働者への教育
雇入れ時や作業内容変更時の安全衛生教育に加え、取扱物質の危険有害性、ラベル・SDSの読み方、保護具の正しい着用・脱装方法などについて実務に即した教育を実施します。
・がん原性物質への対応
厚生労働大臣が定める「がん原性物質」を製造・取り扱う作業に従事させる場合、作業記録および従事者の氏名・従事期間などの記録を作成し、30年間保存する義務があります。
・有害性などの掲示・周知
リスクアセスメント対象物を常時取り扱う屋内作業場においては、物質の名称、人体に及ぼす作用、取扱い上の注意事項、使用すべき保護具などを、作業場の見やすい場所に掲示(または書面交付・PC画面での閲覧等)して周知徹底を図ります。
・労働災害時・ばく露時の対応
薬品の飛散や吸入などによる急性中毒・健康被害の疑いが生じた際、速やかに医師の診察を受けさせることができるよう、緊急時の連絡体制や応急処置手順をあらかじめ整備しておきます。